人気ブログランキング | 話題のタグを見る

日々の泡沫

人に



『人に』


遊びぢやない
暇つぶしぢやない
あなたが私に会ひに来る
――画もかかず、本も読まず、仕事もせず――
そして二日でも、三日でも
笑ひ、戯れ、飛びはね、又抱き
さんざ時間をちぢめ
数日を一瞬に果す

ああ、けれども
それは遊びぢやない
暇つぶしぢやない
充ちあふれた我等の余儀ない命である
生である
力である
浪費に過ぎ過多に走るものの様に見える
八月の自然の豊富さを
あの山の奥に花さき朽ちる草草や
声を発する日の光や
無限に動く雲のむれや
ありあまる雷霆や
雨水や
緑や赤や青や黄や
世界にふき出る勢力を
無駄づかひと何うして言へよう
あなたは私に躍り
私はあなたにうたひ
刻刻の生を一ぱいに歩むのだ
本を擲つ刹那の私と
本を開く刹那の私と
私の量は同じだ
空疎な精励と
空疎な遊惰とを
私に関して聯想してはいけない
愛する心のはちきれた時
すべてを棄て、すべてをのり超え
すべてをふみにじり
又嬉嬉として

                  大正二・二

                       ~ 高村光太郎 「智恵子抄」より ~



詩は
振りだけで作れるものじゃない

その人の
体験が
経験が
想いが
噴出する場所を探して
仕方が無く
たまたま
「詩」
という形になって
顕われた

ただそれだけのこと

そのただそれだけが
でもやはりすごい

すごいとしかいいようがない

愛してるとしか云いようが無い
のと同じように
by hibinoutakata | 2008-03-05 22:26 | 詩撰集