一つのメルヘン
一つのメルヘン
秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があつて、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。
陽といつても、まるで硅石か何かのやうで、
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。
さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでゐてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。
やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもゐなかつた川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました。
- 中原中也 -
ことあるごとに
ふっ
と
頭に浮かぶ詩
もはや心の中のどこかに
この光景が抽象化され焼きついており
私はたぶんそれがとても好きなんだろうと思う
月のようなまるを眺めていたら
ふっ
と頭に浮かんだので
by hibinoutakata
| 2007-07-01 00:08
| 詩撰集