逢引 5
水密桃は残酷なくだものだ。鼻をつく芳香、あわい
色、うすい皮、ざらついた産毛のむずがゆさ。だが
何よりも憂鬱なのは、噛むと口中にひろがる、あの
いちめんに濡れて、濡れて、濡れてやまない過剰な
うるおいの感覚だ。なぜ、こんなにしたたっている
のだろう。ただ甘美な汁のたゆたいだけをぴっちり
とつつみこんだ果皮のうすさの、なんというみだら
な不幸。ぼくは、結局、都会にしか生きられないの
か。
- 松浦寿輝詩集より -
最近毎朝、バスに揺られる10分間が
愉しい読書タイムになっている。
読書に10分は短いと感じるかもしれないが
詩であれば3~4篇は十分堪能できる。
TchaikovskyやVivaldiを大音量で聴きながら
それらに添う本を選んで読む。
自然と気持ちが落ち着いて、さぁ今日もがんばるぞ
そんな気持ちにしてもらえる。
再会したばかりの詩集に、まだ見ぬ一篇が。
うるおいに満ち満ちたことばたち。
この方の手にかかったことばたちは
なんとも幸せそう。
by hibinoutakata
| 2008-07-18 23:18
| 詩撰集